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お酒と趣味と同人と。 「ぶんがくさけざけかいどうをゆく」と酔みます。違った、読みます。 since2008/5/31
 
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[VOON] 潮風トラベラー

目的地まで汽車の中で1夜を明かす、寝台夜行。
車窓を過ぎていく景色が千変万化し、旅人の目を楽しませます。
夕暮れから群青の世界へ移ろい、静かでちょっぴり怖い、幽谷の山々のシルエット。
真っ暗なトンネルを幾つも抜けると、遠くにゆらゆらと揺れるたくさんの灯りが見えた。

「なんだありゃ、人魂かな?」
「人魂って・・・あれは漁火よ、華。漁師が船で沖に出てるのね」

こんな夜中にかい?働きもんだねぇ、と華子。
髪留めに結ってある小さな鈴をリンと鳴らして、腕を組んでそれまで張り付いていた窓から離れる。

「妖怪友達から漁を生業とする人の事は聞かないの?」
珠子は向かいに座る赤髪の少女に、雲間から差し込んだ月明かりで水銀のように輝く銀髪をそっと耳に流し、翡翠色の目を優しく細めたずねる。

海に居る連中は、やれいつも出雲に神様が集まるの見れるのよとか、竜宮城に太郎さんを連れてって爺さんにしてやったわとか、そんなのばっかりだったからな。
しかも、うーんと昔話たっきり。
あたしがいっつも山ばっかりぶらぶらしてたからね。
魚を旨いんだけど、お酒が無くてなぁと頭の後ろで手を組み、足をブラブラと子供のように投げ出す。

それなら近いうちに行けばいいわ。華自慢のお酒を持って。喜ぶわよ、と微笑んで珠子は車窓に目を移す。


「あら、2人とも勿体無い。せっかく海に出たんだから窓を開けなさいな。よっと」

木張りの廊下に軽快な足音を響かせて戻ってきた詠子が窓に手をかけると、ふわっと夜の潮風が車内に流れ込み、3人の少女の髪をはらはらと遊ばせる。

「うふふ、あの漁火に追われた魚たちが、寝静まった頃に車内に入ってきたりしてね」

悪戯っぽく笑う詠子を、華子と珠子が首をかしげ目をぱちくりさせながら見やる。

パチンと指を弾くと、詠子がいつも灯り替わりに使っている、体の周囲をふわふわと飛ぶほのかな燐光が桜色に変化した。

線香花火のように、まるい燐光からはらはらと桜色の光がまるで花びらのように舞散る。
そこだけまるで小さな桜の木が出現したかのよう。

「私にとって夜の海に、漁火、桜貝ってちょっとしたノスタルジーなの。お魚を肴にするのは今度にして、今宵はこの風流を肴にお酒にしましょ」

4人掛けの客席に詠子は腰を下ろすと、3人は楽しくおしゃべりの続きを始めた。

地上に輝く星たちを片手に、汽車は汽笛と蒸気を残し、今日と明日のおぼろな境界をゆっくり越えて行くのでした。


*「はしれ、きたかぜ号」を読んだことがある人は懐かしいかも

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